山口県酒造組合では、山口県の蔵元や杜氏、オリジナル酵母「やまぐち・桜酵母」、日本酒まめ知識、お酒のイベントなどを紹介しています。

山口県酒造組合/山口県酒造協同組合
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桜酵母  


桜の花から分離した酵母による清洒の商品化
 はじめに
 最近は『居酒屋』に行っても、ビールや焼酎等他の酒類を飲む消費者が増え、清酒を飲む人は少なくなった。長年、県内清酒の技術開発等の支援をしてきた者にはいささか寂しい感じがする。
 日本人の食生活はこの数十年大きく変化し、和欧中韓‥諸外国の料理が家庭の食卓に日常的に登場するようになってきた。農林水産省の食料需給表、「国民一人・一日当たりの供給食糧」によると、牛乳・乳製品は35年前の2.5倍、肉類は3.0倍にもなっている。清酒も生酒や吟醸酒、純米酒が広く浸透し、味の成分が辛口淡麗化してきている。
この間の食肉需給の増加量はワイン(果実酒類)販売数量の増大に対応している。しかし、消費者の嗜好の急激な変化からすると、その幅は小さい。清酒の消費が斬減傾向にある要因の一つは、清酒の甘辛を含めた味覚が、現代の消費者一般の嗜好に合わなくなってきたためではなかろうか。清酒はミクロ的にみると差別化されているようにみえるが、大きな嗜好の変化から取り残されているように思われる。嗜好の変化につれて消費者は嗜好に対応した酒類を選択していく、清酒にもアドリブがきく多様性が要求されている。
 何とか個性のある清酒ができないものか‥。新しい製法が開発されてはいるが、清酒の製造方法は本質的には旧態依然である。清酒酵母はすべて清酒もろみから分離された優秀なものが使用されてきているが、各酵母はみな親類関係にある。「自然界には多くの酵母が存在している、分離する対象を拡げてみたらユニークな酵母がいるのではないか」と思った。


 桜の花からの分離
 『桜の花』にも蜜があり、そこには酵母がいるかもしれない。アルコール発酵をする酵母が存在すれば、清酒に使用したらどんな酒になるだろうか。香りや味に特徴ある清酒ができるのではないか。桜、国花、日本、日本酒=清酒、桜というキーワードが新製品開発に組み込めないか・・
 もしもそのような酵母がいたならば、清酒の復権をかけて新たな展開が可能になる。
 平成11年初春、『桜の花』から酵母を分離することを思いついた。
 冬の寒さから開放されたばかりの植物には、微生物の存在は難しいと思われた。また分離作業にはかなりの人手と時間がかかるので、通常研究としてとり組むのはリスクがありわざわざ予算化することもないと考えた。でも、もしも酵母がいるのであれば面白いテーマなので、宇部高等工業専門学校物質工学科 山岡邦雄 教授にこの構想を話し、アシストを依頼した。30年来の友人は、大変興味を示し学生のテーマとして最適であるとして共同研究が始まった。もしも見つかったときのことを考え、酒造業界から酒井酒造(株)にも参画いただいた。
 分離作業は当所でも行いながら定期的に3者で検討会を重ねた。桜の美しさと春を告げる香りに魅了されて、いつの間にか学生たちと桜の花を集めて走りだしていた。清酒造りに使用するため、米麹糖化液を発酵して最低10%のアルコールを生成する能力のある酵母の選抜分離を目標とした。
 山口県産業技術センター(宇部市)の周辺から宇部市内にかけて、100本程度の満開の桜から分離を試み、阿知須町の桜の花から、酒造に適した酵母を分離した。この酵母は「サッカロマイセス・セレビッシェ」であることが判った。『やまぐち・桜酵母』と命名した。


 商品のご紹介

花ならつぼみ 』 酒井酒造(株) (岩国市) 杜氏 : 仲間史彦
特徴 本来ならまだまだ発酵してアルコールを生成することが可能でありますが、途中で発酵を止めて低アルコールに仕上げます。この低アルコールの酒を花に例えるとつぼみの状態に相当します。都々逸の『今日も酒酒明日も酒、酒は飲め飲め「花ならつぼみ」』から命名しました。
成分 アルコール 5.5%、日本酒度 −75、酸度 5.0


黒まいん』・『黒まいん 湧泡』 (有)堀江酒場 (岩国市) 杜氏 : 堀江計全
特徴 「岩国市山代地域」では古代米の一種である黒紫米(通称:黒米)を栽培しています。その黒米の特性を生かし、桜の花びらから採取した『やまぐち桜酵母』を使用して、山口の方言『うまいん(おいしい!)』をかけた『黒まいん』が誕生しました。美容天然成分いっぱいで雅やかな色合いと上品な味わいはまさに古代米と桜酵母の天然マリアージュ。天然清酒”黒まいん”の世界へどうぞおいでませ。
成分 アルコール 7.0%


花かほり 』 (株)山縣本店 (徳山市) 杜氏 : 若松俊孝
特徴 昭和57年、時代に先駆け低アルコールの生酒を開発しました。香りが非常に良いので“かほり“と命名し発売したところ好評を博し、今では国内のみならず欧米にも出荷し、特にニューヨークでは日本酒ブームの一翼を担っています。今回、「やまぐち・桜酵母」を使用したところ“かほり“と同様すばらしい酒ができあがり“花かほり“と命名しました。柔らかな香りでやさしい味わいです。
成分 アルコール 13.5%、日本酒度 ±0、酸度 1.3


花音 』 (株)永山本家酒造場 (宇部市) 杜氏 : 永山貴博
特徴 甘酸っぱい桜のイメージを瓶に詰めた新感覚の日本酒です。桜の花と炭酸ガスの音のイメージで“花音”と命名しました。
成分 アルコール 7.0%、日本酒度 −80、酸度 4.2


さくら・さくら 』 岩崎酒造(株) (萩市) 杜氏 : 南野清美
特徴 桜から分離された酵母が放つ、桜のような甘い香りのイメージを“さくら”として表現しました。国内だけでなく広く、国際的に清酒を認知して飲んでいただくために“さくら”としました。
成分 アルコール 9.2%、日本酒度 −35、酸度 3.0


桜のしずく 』 八千代酒造(名) (萩市) 杜氏 : 蒲 悟
特徴 やまぐち・桜酵母を使って仕込んだ「桜のしずく」は春、桜の季節限定のお酒です。やや辛口のくせのないスッキリと飲みやすい純米酒です。
成分 アルコール 15%、日本酒度 ±0、酸度 1.6


花咲じじい 』 永山酒造(名) (山陽小野田市) 杜氏(焼酎) : 永山源太郎
特徴 平成13年日本初の桜酵母で造った焼酎として発売。桜酵母の特性により、発酵段階から有機酸がおさえられ、ピリピリせず飲みやすいあまい香りの焼酎ができました。山口の偉人大村益次郎の物語「花神」から引用して命名しました。
成分 -



 『やまぐち・桜酵母』を使用した焼酎の商品化
 この酵母は米糖化液の発酵に際して、比較的高い温度でも、有機酸の生成が少なく特に酢酸の生成量が著しく少ない特性があることが判ったので、個性的な焼酎ができるのではないかと思い、本格米焼酎を製造している永山酒造合名会社(山口県厚狭郡山陽町)に焼酎の製造を打診した。試験醸造を行い、蒸留直後であってもビリビリした刺激感がなく、熟成したようなまろやかで甘い香りのユニークな焼酎ができることがわかった。本年9月下旬に本格米焼酎『花咲じじい』として発売した。「先行き不安なこの時代に、花を咲かせる原動力となるように」との思いを込めて命名。アルコール25%


 おわりに
 まだ花見ができる平成13年4月13日に発売したところ、マスコミに大きく取り上げられ爆発的に売れた。4社とも4月以降に新たな仕込みを行って対処している。清酒も視点・イメージを変えればまだまだ売れるということを肌で感じた。『やまぐち・桜酵母』を使用した個性ある清酒・焼酎を全国に提供して行きたいと思う。まさか桜の花に清酒をつくる能力のある酵母がいるとは思わなかった。宇部高専の献身的な協力がなければ酵母は見つからなかった。産学官のプロジェクトが成功した好例として嬉しく思う。既存の酵母に新たな特性を付与することもバイオテクノロジーの進展により可能になったが、自然界には未知の可能性が秘められており目的を持って探索を続ければ新しい回答があることを教えてくれた。最後になりましたが、終始ご協力をいただいた宇部高専教官 加藤美都子氏、宇部高専の学生の皆様、産業技術センター食品技術部の皆様に感謝いたします。



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